「考えない方が上手くいく!」ダンスとピラティスに共通する頭の使い方
先日、IADMS(International Association of Dance Medicine & Science)でのレクチャーで、クレア グス ウエスト(Clare Guss-West)氏の講演を拝聴しました。
彼女は、ロイヤル・バレエ団やヒューストン・バレエ団などでダンサーのヘルスケアに携わっていたセラピストであり、自身も振付家として活動していた経験を持ちます。
クレア氏の講演で印象的だったのは、「なぜ練習しても上達しないのか?」という問いかけです。
ピルエットなどダンスの難しい技を繰り返し練習してもできずに疲れ切ってしまったり、
あるいは、ピラティスだったら、ロールアップができなくて、天井を見つめたまま仰向けになって呆然としてしまったり、
そんなケースを経験した人も多いのではないでしょうか。
この練習方法に何が足りないのかを、クレア氏は、自身が研究したことを踏まえて興味深く語ってくれました。
ダンサーは「考えすぎている」?
彼女がロイヤル・バレエ団で働いていたとき、元体操選手がロイヤルバレエのダンサーとして入団してきたそうです。
その体操選手が、ダンサーとして入団してから感じたのは、
ロイヤルバレエのダンサーが踊っている時に、とても多くのことを考えながら踊っているということでした!
たとえば、ピルエットを回るときは、「左足にしっかり乗って…」「右腕を早く前に持ってきて…」「軸を上に引き上げて…」といったように、頭の中がたくさんの情報でいっぱいになっていというのです。
一方で体操選手は、「たった一つのこと」に集中して演技できるように練習し、パフォーマンスをするときは一つのことに集中するとのことで、その方がいい演技ができるというのです。
ダンサーが踊る時に多くのことを考えるこの思考パターンは、マルチタスクと言われるもので、脳の働きはADHDに近いとも指摘していました。
「一つの注意点」に絞る方が上手くいく
クレア氏がデンマーク・バレエ団でトレーナーをしていた時に行った調査でも、ダンサーの集中の仕方によってテクニックの上達具合が変わることがわかりました。
バレエ教師が、生徒のバレエテクニックに注意を与える時、1つのテクニックについて3つ程度の注意点を与えたとき、生徒の動きは一時的に良くなることがわかりました。
ですが、ダンサー自身が「ひとつの注意だけに集中した」場合の方が、動きが安定し、ダンスの表現に余裕もできたというのです。
ダンサーが注意した一つの注意とは「腕の角度」や「脚の高さ」といった体の細部の動かし方ではなく
「スパイラルの動き」、「流れるように動く」、「空間に向かって伸びる」など、動きの質やイメージを示すような言葉だったそうです。
ピラティスでも同じことが言える
この考え方は、私自身が、指導しているピラティスにもそのまま当てはまります。
ピラティスでは、体のコンディションを整えるために、
腰椎・胸椎・骨盤・大臀筋など、身体の細部を丁寧にコントロールすることが欠かせません。しかし、それだけに集中していると、かえって動きが止まったり、不自然になってしまうこともあります。
たとえば、脊柱のロールダウンでは、
「背骨を真珠の粒のように一つずつ動かす」
というように、全体を一つのイメージとして捉えることで、動きがスムーズになります。
結論:重要なのは「動きの全体像をイメージすること」
ピラティスは、体の状態を整えるボディコンディショニングであり、ターゲットになる筋肉や関節に注意を向けてコントロールしながら動かすことも重要です。
しかし、最終的に目指すのは、全身を統合して動かすこと。これは、ピラティスの原則の中のフロー(流れるように動く)と言われる原則です。
そのためには、細部の筋肉や関節をコントロールしつつも、動きを一つのイメージとして捉えることが重要で、そうすることで、身体をより機能的に動かすことができます。
つまり、ピラティスやダンスをするときに、共通するの頭の使い方は、細部にとらわれすぎず、「一つの意識やイメージ」に集中する方が自然で、スムーズに動けるのです。
そして、特に効果的なのは、「パールの真珠の粒を一つづつ落とす」や「スパイラルに動く」などのように、「動きの質を表すイメージ」です。
ピラティスのエクササイズをしていると、色々と考えすぎてわからなくなり、考え込んでしまうこともあるでしょう。
そんなときは、ひと呼吸入れて身体の流れや動きの全体像をイメージしてみるのもありです。
新たなイメージでスムーズにできるようになるかもしれません。
参考資料:IADMS Webinar: The Best You that You Can Be – Attention and Focus Tools to Enhance Power and Precision, and Renew Energy and Stamina for Training, Rehearsal, and Performance.