膝の痛みを改善する身体の使い方と鍛え方― 動作とアラインメントから考える ―
目次
1、ピラティスで膝の痛みが改善した50代女性の体験
当スタジオでピラティスのレッスンを受けているA子さん(50代)は、ジムでのトレーニングや階段を使った運動など、日頃から体を動かすことが好きな方です。
一方で、運動後や疲労がたまったときには、膝の痛みや違和感が出ることがあり、「運動は続けたいけれど、膝が不安」という状態でもありました。
A子さんはジムで体を動かす前に、ピラティスレッスンを取り入れたところ、レッスン後に膝が動かしやすいという変化を実感しました。
そこで、ピラティスレッスンを定期的に週1回行っていたところ、だんだん身体が整い、膝の調子が安定していきました。
そして、数ヶ月かけて、徐々に痛みが減り、動作の安定と回復の早さを実感するようになりました。
現在では、ジムでの激しいエアロビクスの運動も無理なくできるようになり、「体がどんどん強くなっている」と前向きに運動を楽しんでいます。
A子さんの膝の痛みを改善していくために、ピラティスがどのように役に立ったのでしょうか。
A子さんのような膝の痛みは、ダンサーが膝を曲げる時やジャンプから着地するときなどにも起こりがちな痛みです。
そこで、この記事では、膝の痛み抱える方のありがちな原因とその予防方法について、ダンサーの膝の怪我(前十字靭帯損傷)に関する研究にも触れながら書きます。
さらに、ピラティスを運動療法としてどのように行ったことで、膝の痛みの改善が見られたのかそのことについても考察します。
2、曲げたときの膝の向きが、膝の痛みを引き起こす
最初のレッスンで、A子さんの動きを確認すると、痛みやすい脚の膝を曲げたときに、膝が内側に曲がる癖(膝の外反とも言います)が見られました。
膝を曲げる動作では、本来股関節・膝・つま先が同じ方向を向いたまま動くことが理想です。(下記図参照)

- 膝だけが内側に入る
- あるいは外側へ流れる
といった状態では、膝関節にねじれのストレスがかかります。
このような膝のアラインメントの乱れは、特別な運動をしていなくても、階段の上り下りやスクワットなど日常動作の中で繰り返されます。
A子さんの場合は、エアロビクスでジャンプなどをして着地の時に、無意識に膝が内側に入っていたことが、痛みを増した原因と考えられます。
膝の痛みは、膝そのものが問題なのではなく、動作中の膝の向きが適切でないことが原因になっている場合が少なくありません。
3、ダンサーの研究が示す「膝を痛める動き」とその予防
このような膝の痛みを抱えるのは、A子さんのような運動愛好家だけでなく、アスリートやダンサーにも多く見られます。
ダンサーや舞台芸術家の怪我やコンディショニングについて研究をしている舞台医学学会の論文「ダンサーの膝前十字靭帯損傷の派生要因と予防」(宮内 他) では、膝前十字靭帯を損傷したダンサーがジャンプで着地した際に
膝が外反(内側に入る)し、下腿(腓骨)が内旋していて
このような膝の動きが、十字靭帯の損傷に大きく関わっていたことが書かれています。
そして、「予防のためには体幹および下肢の筋力に注意した運動制御トレーニングを含む予防プログラムが有用である。」と述べています。
つまり、安定した体幹、お尻や太ももを含む下肢全体の筋力の強化、そして正しい動作の習得が、運動中の膝の痛みを回避するために必要だというということです。
これはダンサー特有の問題ではなく、階段を下りる動作や、片脚で体重を支える動きなど、日常動作にも共通することです。
4、動きの再教育で膝の痛みを改善したA子さん
● 動きのリハビリをしやすいピラティスマシン
A子さんが行ったのは、単に筋力をつけるトレーニングではなく、膝の正しい位置と動きを身体で覚え直し、体幹と脚腰の筋力をバランスよく強化する運動療法としてのピラティスでした。
まず、ピラティスマシンであるリフォーマを利用したエクササイズでは
仰向けで、体をまっすぐにした状態で、膝を曲げ伸ばしした時に、膝が内側や外側にぶれない位置を繰り返して体に覚え込ませるようにしました。
リフォーマーでは、この膝の正しい曲げ伸ばしの動作を繰り返しやすいのが大きな特徴です。
次に、立位で行うチェアのエクササイズでは、
- 階段の上り下りや着地動作に近い負荷
- 膝が内側に入らないまま体重を支える力
を養えます。
● 指導者が動きを正しく導くこと
膝の向きや脚の軌道は、本人が気づきにくい部分です。
そのため、指導者が膝の位置や動きを確認し、必要に応じて誘導・修正することが重要になります。
A子さんの場合も、
- 仰向け → 立位 → 日常動作へ
- 段階的に動きを発展させながら
- 膝が内側に入る癖を修正
していくことで、膝の痛みが改善していきました。
5、まとめ
膝の痛みは、膝だけの問題ではありません。
曲げたときの膝の向き(アラインメント*と、身体全体の使い方が大きく関係しています。
そのためには、
- 体幹の安定
- お尻・太もも・股関節・足を含めた下肢全体の連動
- リフォーマー(臥位)とチェア(立位)を使った段階的なトレーニング
- 指導者による動作の誘導と修正
が重要です。
このように、脚のアラインメントを整える機能を持つピラティスマシンと的確なトレーニングを行うことで、脚の使い方を再教育し、筋力もつけることができます。
膝の痛みを理由に、ダンス、スポーツ、運動をあきらめる前に、身体の使い方を見直すことが、痛みの改善と予防への第一歩になります。
参考文献
舞台医学実践入門 日本舞台医学会 (監修),

