体が柔らかすぎは怪我のもと!長時間ストレッチもNG?バレエ団の実践例とピラティス効用
バレエや社交ダンス、モダンダンスなどダンスに取り組む方にとって、体を柔らかくする柔軟体操は欠かせないと思いがちです。
しかしながら、最近では、関節などの可動がありすぎる過剰可動性症候群 (hypermobility)はケガを引き起こし、柔らかくなろうとしてよくやる長時間同じ姿勢で行う静的ストレッチも、逆に怪我のリスクを高める事実がわかってきました。
この記事では、海外のバレエダンであるオーストラリアバレエ団の実証とロイヤル・バレエ団の実地調査からわかった2つのこと
長時間のストレッチ(静的ストレッチ)は、ダンサーの怪我を引き起こす原因となること、 と
柔らかすぎる身体はかえってケガをしやすい
の事実について説明し、
最後に動的ストレッチの要素もあるピラティスの効用についてお話しします。
目次
過剰可動性と怪我の関係 ― ロイヤルバレエ団の調査から
ロイヤルバレエ団のフィジオセラピストであるモイラ・マコーマック氏は、「過剰可動性のあるダンサーの指導」についての論文の中で、以下のような興味深い調査結果を示しています。
ロイヤルバレエ学校に在籍する生徒を対象に、過剰可動性症候群(Hypermobility Syndrome)の発生率について年齢ごとに調べたところ:
- 11〜16歳の生徒のうち*45%*が過剰可動性を持っていた
- 16〜18歳では、男子は変化がなく、女子は35%に減少
- さらにプロのバレエ団所属ダンサーでは、男性36%・女性26%と、割合が大きく減少していたのです
このデータは、「柔軟性があるから有利」という単純な見方が危険であることを示しています。
特に、過剰可動性のあるダンサー(過剰可動性症候群(Hypermobility Syndrome))は、バレエ学校のオーディションの時には、その飛び抜けた柔軟性によって、脚を高く上げたり、派手なパフォーマンスができるので入学できる確率が高くなりますが、
学校で毎日トレーニングしていく中で、関節の不安定が原因で怪我をしやすく、その結果バレエを続けられなくなってしまうのです。
【事例】バレエ団がストレッチ器具を廃止した理由
また、オーストラリアバレエ団の理学療法士スー・マイヤーズ氏はダンサーたちの柔軟性向上のトレーニングを改善したときのことを次のように語っています。
「以前は、スタジオの片隅にストレッチ器具を設置していたので、ダンサーたちはそこに立って何分も伸ばしていました。
ところがその長時間のストレッチが原因で、ふくらはぎの筋力が低下し、怪我が増えていたことがわかったのです。
そこで、そのふくらはぎストレッチ器具を撤去。
代わりに筋トレ器具(カーフレイズなど)を導入したところ、その器具でトレーニングするようになったダンサーたちのふくらはぎの怪我が劇的に減ったのです。」
つまり、「ストレッチ器具に乗って、ふくらはぎやアキレス腱を伸ばすだけのでは、筋力が落ち、怪我をしやすくなる」ということがわかったのです。
長時間にわたる静的ストレッチの落とし穴
長時間、筋肉を引き伸ばす静的ストレッチには、一時的に関節可動域が広がるメリットがありますが、
同時に筋出力(力を出す力)が低下させてしまうため、関節の安定性が失われ怪我をしやすくなるというデメリットがあります。。
特にバレエ、社交ダンス、モダンダンスなどの、体をしなやかに動かすダンスでは、関節と筋肉を柔らかく動かす柔軟性と共にホールド、キープする“強さ”の両立が必要です。
バレエ団が実践するふくらはぎの怪我をなくすトレーニング
さらに、オーストラリア・バレエ団のマイヤーズ氏は、バレエ団のダンサーたちのトレーニングにも修正を提案。
バレエ団では、ダンサーたちにそれまで行っていた器具を使った長時間のストレッチをやめさせ、代わりに片足のルルベ(片足で踵を上げるエクササイズ)を、続けて24回やるエクササイズを毎日のバーレッスンの最後に取り入れるようにしました。
そうしたところ、ダンサーたちの足首やふくらはぎの怪我が激減していったというのです。

「動的ストレッチ」で深層筋を使うピラティスはダンスのトレーニングに適している!
さらにオーストラリアバレエのトレーナーのプルチャー氏によると
「ダイナミックストレッチ、PNFストレッチ、ダイナミックストレッチなどストレッチのストレッチは、筋肉を40秒以上は伸ばさないので、伸ばしすぎることはないですが、
一番大切なのは、ウォーミングアップの時に感じる奥の方の硬い筋肉を見つけて、そこを十分にほぐすことです。
このように、自分で自分の筋肉に気づいて、トレーニングしていくことの方が、ダンサーにとっては重要なのです」と言っています。
ピラティスは、ただ伸ばすだけのストレッチとは異なり、自分で深層筋を意識しながら、ストレッチしたり、動かしたりするので、ダンサーのためのしなやかな柔軟性と体軸の安定性を養うのに適したトレーニングといえます。
私の ピラティススタジオでも、社交ダンスの愛好家の方やモダンバレエのダンサーの方々が、
「動きが軽くなった」「上体が柔らかく動かせるようになった」「バランスが良くなった」と実感してくださっています。

まとめ
ロイヤルバレエ学校の調査からもわかるように、脚を高く上げたり、派手なパフォーマンスを追い求めて過剰可動性症候群になってしまい、踊ることを続けられなくなったり、
ダンサーは体が柔らかくないと!と言って、床で長時間ストレッチを行ってからクラスを受けるというのは無意味なことと言えるでしょう。
上記2つのバレエダンの実証により、ダンス、バレエのトレーニング方法を見直すことによってより効果的に、怪我のリスクを減らし、踊るための体づくりができるようになります。
バレエ、社交ダンス、モダンダンスなど、踊る体のためのトレーニングに不安を感じている方は、ぜひ一度「動きながら整える」トレーニングであるピラティスを新しい体づくりを体験してみてください。
出典:
Rain Francis (2019). Why The Australian Ballet dancers quit stretching. Dance Australia Magazine.
https://dancemagazine.com.au/2019/09/why-the-australian-ballet-dancers-quit-stretching/
IADMS Bulletin for Teachers
Moira McCormack, M.Sc., Head of Physiotherapy, The Royal Ballet Company,(2010)IADMS Bulletin for Teachers
https://cpdfordanceteachers.com/wp-content/uploads/2012/03/teaching-hypermobile-dancers-iadms-bulletin-for-teachers-mccormack.pdf