姿勢の見直しと体幹強化から始める──股関節痛のためのコンディショニングメソッド【変形性股関節症】
目次
はじめに
変形性股関節症は、年齢とともに股関節の軟骨がすり減り、痛みや可動域の制限が生じる疾患です。
公益社団法人長寿科学振興財団の調査によると、日本には約120万〜510万人の変形性股関節症患者が存在し、その約9割が女性といわれています。(長寿科学振興財団サイト)
また、米国膝関節・股関節外科学会(AAHKS)によると、
長寿化によって関節炎はより一般的になり、2030年には股関節手術を必要とする患者数が174%に達すると推定されています。
このように、股関節の痛みは今後ますます多くの人にとって身近な問題となるでしょう。
そこで今回は、私自身が痛みを克服した経験と、コンディショニング&トレーニングの指導経験をもとに、
「姿勢改善、体幹を鍛え、全身で整える」という考え方から、変形性股関節症におすすめのエクササイズメソッドをご紹介します。
1,痛い部分を動かさない──リハビリの第一歩は“自分の体を観察すること”
股関節に痛みを感じると、どうしても「ストレッチしたい」「もみほぐしたい」と思いがちです。
しかし、関節が痛む状態で強く動かすと、かえって痛みが悪化することがあります。
私のスタジオでは、まず痛い部分を動かさない・ストレッチしない・もみほぐさないという段階から始めます。
これは“休ませる”というよりも、体を観察し、回復の準備を整えるためです。
「どこがどのように痛いのか」「どの姿勢が一番楽か」
こうした“体の声”を聞くことが、変形性股関節症のリハビリでは最も大切です。
それでは、その体幹をどのように鍛え全身のバランスを良くし、股関節を安定させてけばいいのでしょうか。
次から、具体的にやり方をお話しします。
2,呼吸と姿勢改善──股関節に負担の少ない姿勢を感じ取る
股関節の痛みを軽減するには、まず正しい姿勢を取り戻すことが大切です。
立っている時も、仰向けで寝ている時も、
「背骨が自然なS字を描き、骨格が整っている状態」が関節を動かしやすくするので、股関節に最も負担が少ない姿勢です。
まずは仰向けの状態で、自分の体が床にどう接しているかを感じ取ってみてください。
つむじー鼻筋ー胸の中心ー肋骨の中心ー恥骨ー両足の間という背骨のセンターラインを意識しながら、
左右の骨盤や背中が床に均等に当たっているかどうか確認します。
そして、姿勢を整える上で欠かせないのが呼吸です。
呼吸は体をリラックスさせ、深層筋である横隔膜を自然に動かします。
深い呼吸を繰り返すことで、体の左右差、重心の偏りに気づけるようになり、筋肉の緊張も取れていきます。
ピラティスのラテラル呼吸(肋骨を横に広げる半胸式呼吸法)は、骨盤の安定を高め、体幹全体を整えるのに効果的です。
呼吸と姿勢を整えることが、股関節コンディショニングの土台です。
3,体幹から整える──骨盤を正しく支え、股関節の位置を安定させる
股関節の痛みを改善するには、体幹(腹筋・背筋・臀筋)を整え、骨盤を安定させることが欠かせません。
姿勢が前屈みになると股関節の前側に、負担がかかり、上体が後ろに傾けば股関節の後ろ側に、負担がかかります。
同じように、上体が横に傾けば、股関節の側面に圧力がかかるので、負担のかかる部分に痛みや炎症を引き起こします。
つまり、股関節の真上に骨盤が正しく“乗る”姿勢を保てれば、股関節部分の軟骨や関節包(関節全体を覆う膜)、関節唇が圧迫を受けずに、大腿骨の骨頭(太ももの骨)を寛骨臼(骨盤側ソケット状の部分)の中でスムーズに動かすことができます。
20年以上も多くのバレエ団のバレリーナをケアするフィジオセラピストのリサ・ハウエル氏の話では、
股関節の前側に痛みを訴えるダンサーと、後ろ側に痛みを訴えるダンサーを指導する中で、
股関節が“正しくはまる位置”(大腿骨の骨頭と寛骨臼の位置)と整えるよう導いたところ、
どちらのケースでも痛みが軽減し、脚がよりスムーズに上がるようになったと報告しています。
私自身も股関節の前側に痛みが出ていた時は、骨盤が前傾していた時期がありましたが、
骨盤がまっすぐになるように体幹を鍛え、次に腸腰筋・ハムストリングス・臀筋をバランスよく鍛えることで、痛みが軽減し、姿勢も良くなりました。
おすすめの股関節・体幹エクササイズ
下のエクササイズは、変形性股関節症で股関節が痛い時にお勧めできるエクササイズです。
痛みが出ない範囲で、次のエクササイズを朝または寝る前に1日1回行うのがおすすめです。
それぞれ8回を目安に、呼吸を止めずにゆっくり行いましょう。
① ペルビックカール(腹筋群)
息を吸いながら、深層の腹筋を使い、骨盤をおへその方に傾ける。息を吐きながら、骨盤は床と平行に戻す。

② ショルダーブリッジ(腹筋群、臀筋、ハムストリングス)
息を吐きながらお尻を上げ、肩から膝まで一直線に。降ろす時は首の後ろ傘背骨をひとつつづおろしていく。

③ チェストアップ(腹筋上部)
両手を頭の後ろに、腹筋の上部を使い肩甲骨のところまで上体をあげる

④ クリスクロス(腹斜筋)
両手を頭の後ろに、息を吐きながら右肘と左膝を近づけるように上体を捻じり、続けて反対側も交互に行う

⑤ レッグリフト(腸腰筋、股関節屈筋群)
仰向け膝立から片足づつゆっくり持ち上げ、体幹と脚のつながりを意識。

⑥ アロー(背筋群):
うつ伏せで、両腕を体に沿わせ、上体を持ち上げ、体幹の後面を整える。

⑦ サイドレッグリフト(中臀筋、脚の外側)
横向きで、骨盤と体幹を安定させながら、上の足を骨盤の高さに上げる

⑧ 踵と坐骨をつなぐエクササイズ(ハムストリングス)
仰向けから、踵で床を押し、裏ももと坐骨をつながりを感じながら膝を伸ばす。

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これらのエクササイズを続けて、股関節の痛みが軽くなってきたら、1回にやるエクササイズの回数を6回に減らし、
肘付きプランクやシングルレッグストレッチなど、全身のエクササイズや強度高めのエクササイズにしたり、立位や座位の動きも徐々に加えていけば、動作の初動や歩くなどの日常動作も楽になっていきます。
4,全身のバランスを整えて、股関節の負担を軽くする
股関節の改善は、股関節だけを動かすことではなく、全身のバランスを整えることです。
体幹・腰・脚・腕の全身がバランスよく連動して動かすことで、股関節の動きも良くなっていきます。
股関節が痛いと股関節や脚が特に気になりますが、痛みのない部分の肩や背中を動かすだけでも血流が改善するので、股関節まわりの筋肉の緊張も自然にほぐれていきます。
全身をバランスよく動かすことで、筋肉のバランスが良くなり、股関節部分の動きも良くなります。
このように、体幹を鍛え、全身のつながりを意識しながら整えていくことで、痛みがやわらぎ、少しづつ痛い方の足に体重をかけて動けるようになるのです。
まとめ──全身のバランスを治して股関節の動きを良くする
変形性股関節症の改善では、、単に痛みを取ることではなく、体幹を始め全身の筋肉や関節の動きを見直すことが大切だと感じています。
そのためには呼吸と姿勢を整え、自分の体の声を聞き、体幹を鍛えつつ、全身をバランスよく整えることで、股関節の痛みは改善していきます。
今回、当スタジオ名をコンディショニング&トレーニングスタジオに変更しましたが、「自分の体を知り、全身のバランスから痛みのある部分を調整していく」という考え方からきています。
この方法は運動療法、保存療法とも言われていますが、私はこの方法で、自身の股関節の痛みを改善しました。
疲れた時や体調の悪い時は、時々痛みや違和感があるときもありますが、自分で調整(コンディショニング)しています。
私のクライアントで、人工股関節置換手術を受けた人もいますが、当スタジオでコンディションを整えながら、テニスを続けていて、試合にも参加できるようになっています。
股関節の痛みは、このように自分で体のコンディションを整えていくことで、少しずつ和らぎ、日常の動作も楽になります。
スポーツやダンスなどの趣味も、より快適に続けられるようになるでしょう。
股関節に違和感や痛みのある方は、無理のない範囲で運動療法やコンディショニングを取り入れてみてください。
体が変わる、動きやすくなる実感を、きっと得られると思います。

